<大阪母子殺害>被告側「無罪判決に向け全力」(毎日新聞)

 「『疑わしきは被告の利益に』という刑事裁判の原則にかなった判決。差し戻し審では無罪判決に向け全力で頑張りたい」。大阪市の母子殺害事件で殺人罪などに問われた刑務官、森健充(たけみつ)被告(52)の死刑判決を破棄した27日の最高裁判決について、弁護側は高く評価した。今後、大阪地裁で審理がやり直されるが、判決は改めて直接証拠がない事件捜査の難しさを示した。

 午後3時、最高裁第3小法廷。藤田宙靖(ときやす)裁判長の退官により、堀籠幸男裁判官が判決主文を代読すると、後藤貞人弁護士はじっと前を見つめ、弁護活動の実務を担った陳愛弁護士は、うっすらと涙を浮かべた。

 1、2審とも有罪とされた森被告だが、陳弁護士らの接見に、いつも「裁判所は分かってくれる」と語り、無罪判決しか頭にない様子だったという。後藤弁護士は法廷を出ると事務所に電話し、森被告に判決を伝える電報を打つよう指示した。

 その後、後藤弁護士は「最高裁はこれまで事実誤認の主張に扉を閉ざしてきたが、最近は痴漢冤罪(えんざい)や再審など変化が見られる。裁判員制度開始の影響が大きい」と興奮を隠せない様子で語った。

 大阪府警の捜査については「あまりに早い段階で容疑者を絞り、必要な捜査を怠った。無理な取り調べもあった」と批判。「検証のため取り調べの可視化が必要」と語気を強めた。【伊藤直孝】

 ◇事件の経緯◇

 02年4月14日夜、大阪市平野区のマンション一室から出火し、焼け跡から主婦の森まゆみさん(当時28歳)と長男瞳真(とうま)ちゃん(同1歳)の他殺体が見つかった。まゆみさんは森被告の妻の連れ子と結婚して暮らしており、検察側は、まゆみさんに恋愛感情を募らせた森被告が思いを拒まれるなどしたため憤って絞殺し、瞳真ちゃんを浴槽につけて水死させたうえ、室内に放火したとして、殺人、現住建造物等放火罪で起訴した。1審・大阪地裁は05年8月、状況証拠から有罪認定して無期懲役を言い渡し、2審・大阪高裁(06年12月)も有罪として「被告は反省しておらず、更生の可能性はない」と死刑を言い渡した。

 ◇解説…証拠評価、裁判官も割れる

 死刑判決を破棄した最高裁判決だが、裁判官5人の見解は割れた。小法廷の考え方となる多数意見は3人にとどまり、1人は「有罪の余地あり」、1人は1、2審の有罪認定を支持した。裁判員制度導入で一般市民が死刑判決に関与するかもしれない中、状況証拠のみで判断する困難さを改めて浮き彫りにした。

 判決は、「直接証拠がある事件でも、状況証拠のみの事件でも有罪認定の基準は変わらない」とした07年の最高裁判例を引用したうえで、状況証拠のみの事件では「被告が犯人でなければ合理的に説明できない事実関係が必要」と基準を明確化した。検察側は現場マンションに残された吸い殻を立証の柱としたが、多数意見は有罪認定のレベルに達していないとした。

 しかし、「検察側立証は十分」とする堀籠幸男裁判官は、裁判員制度の目的が国民の健全な良識を刑事裁判に反映させることと強調したうえで、「こうした基準は不明確。裁判官の認定手法を裁判員に求めることは避けるべきだ」と指摘した。一方で、藤田宙靖裁判長は「手放しで『国民の健全な良識』を求めることが制度の趣旨と言えるかは疑問。基準を明示することは、法律家の責務」と反論し、裁判員がこの基準に従うべきかどうかも、見解が分かれた。

 全国的な注目を集めた埼玉・千葉と鳥取の連続不審死事件も、今後、裁判員が加わった裁判で審理されるが、被告の関与を示す直接証拠はないとされる。裁判員が確信を持って判断できるよう、検察側はこれまで以上に十分な証拠集めと説得力のある立証活動を求められる。【伊藤一郎】

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